Googleが仕掛ける「メール確認」の新技術(Email Verification Protocol)で会員登録はここまでラクになる
会員登録のたびに、メールアドレスを入力し、送信ボタンを押して確認メールを待つ。受信箱を開き、時には迷惑メールフォルダまで探し回り、ようやく見つけたリンクをクリックしてサイトに戻る。
メールの到達率の問題も発生してきている中、長年「当たり前」とされてきた面倒な手順に、Googleがついにメスを入れようとしています。
Chromeで現在テストが進められている新しい仕組み、その名も「Email Verification Protocol(以下、EVP:メール確認プロトコル)」です。
今回は、今Googleが実装を進めているEVPによって私たちのウェブ体験がどう変わるのか、さらに、Webサービスを運営する事業者側ではどう対応すべきなのか解説します。
そもそもEVP(メール確認プロトコル)とは?何が変わるのか
EVPが実現しようとしている価値は非常にシンプルです。それは、「確認メールを送らずに、メールアドレスの持ち主であることを証明する」こと。
すでにGoogleアカウント(Gmailなど)にログインした状態でChromeを使っていれば、ブラウザが裏側でGoogle(メールプロバイダ)と直接やり取りをして、
「このメールアドレスは確かにこの人が現在使っているものです」
という暗号署名付きの証明書を取得します。ユーザーはメールアプリを開く必要も、リンクをクリックしてブラウザを行き来する必要もありません。本当に何もしなくていいようです。
確認作業は、登録フォーム上で一瞬にして完了します。
利用者のメリット:「何もしなくていい」上にプライバシーも安心
個人の利用者にとって、これは非常にありがたいアップデートで、特別な設定やアプリのインストールは一切必要ありません。
普段どおりログインした状態でChromeを使っていれば、対応済みのWebサイトで自動的に恩恵を受けられます。
必要な条件は「自動入力」から選ぶだけ
この恩恵を受けるためには1つ条件があります。
現時点の仕様では、メールアドレスを一文字ずつ手入力するのではなく、Chromeが提案する「自動入力のプルダウン」からメールアドレスを選択した場合のみ、このEVPが作動する仕組みになっています。
これまで数秒〜数十秒かかっていた「確認メール待ち」のストレスがなくなり、フォームに情報を入力してから会員登録が完了するまでの体感時間が劇的に短くなります。
導入する事業者にとってもメリットがあって、今まで途中で離脱していたユーザーも、最後までスムーズに登録を終えられる可能性が高まるはずです。
プライバシー面もしっかり配慮
「ブラウザが裏側でGoogleと通信する」と聞くと、
「自分がどのサイトに登録しようとしているか、Googleに筒抜け!?」
と心配になる方もいるかもしれませんが、EVPの仕組み上、Google側は
「このメールアドレスの持ち主が存在するか」
という確認リクエストを受け取るだけで、「どのサイトからリクエストが来たのか」は分からないようになっています。
事業者側のメリットは大!想像以上に低い実装ハードル
では、会員登録フォームを運営する事業者側は何をすればいいのでしょうか。実は、事業者にとっても
「フォームに一手間加えるだけでコンバージョン率を劇的に改善できる!」
という、非常に魅力的な話なのです。
具体的な必要な対応ステップは主に以下の3つです。
- Chromeのオリジントライアルに登録する(テスト機能を使うための手続き)
- フォームに目に見えない入力欄(hiddenフィールド)を1つ追加する
- 届いた証明書が本物かを検証するプログラムをサーバー側に実装する
3つ目がやや専門的な作業になりますが、暗号署名の検証には既存のライブラリが使えるため、社内にエンジニアがいれば比較的短期間で対応可能な規模です。
現在はこちらのページからトライアルの登録ができます。
https://developer.chrome.com/origintrials/#/view_trial/10696049115004929
「非対応ブラウザ」への出し分け処理も不要
さらにエンジニアにとって嬉しいのが、複雑な「ブラウザ判定」が不要な点です。
もしユーザーがEVPに非対応のブラウザを使っていた場合、追加した見えない入力欄(トークン)が「空」のままサーバーに送信されます。
そのため事業者側は、
「トークンが入っていればEVPで認証し、空であれば従来どおり確認メールを送信する」
というシンプルな条件分岐をサーバー側に書くだけで済みます。フロントエンドで複雑な処理を作り込む必要はありません。
確認メール待ちでのユーザー離脱は、多くのマーケターにとって長年の悩みの種でしたが、この改修でスキップできるようになるのは、大きなブレイクスルーと言えます。
ただし、いい事だけでもない。導入前に知っておきたい4つの注意点とは
ここまで聞くと「良いことずくめ」に思えますが、マーケターやエンジニアが押さえておくべき注意点もいくつかあります。
1. 「メールが届くこと」までは証明しない
EVPが確認するのは、あくまで「ユーザーがそのメールサービスに有効なログインセッションを持っているか」だけです。
実際にそのアドレス宛のメールが迷惑メールに入らず届くか、開封されるかどうかは別問題です。
そのため、登録直後の「サンキューメール」などを通じて接点を持つ運用は引き続き重要になります。
2. まだ実験段階(オリジントライアル)の機能である
ブログ記事を公開した現時点では、EVPはChromeの「オリジントライアル」というテスト段階の機能です。
今後仕様が変更される可能性も十分にあり、対応しているプロバイダもGmailなどに限られています。「今すぐ完全移行しなければ」と焦る必要はありません。
3. 当面は「従来の確認メール」との併用が必須
すべてのユーザーが最新のChromeを使い、Googleアカウントでログインしているわけではありません。
前述の通り、非対応の環境では従来の「確認メール方式」に切り替わるため、完全に確認メールのシステムを廃止できるわけではなく、両方を併用する運用となります。
4. ダブルオプトインが担ってきた役割をどう補うか
これまでのダブルオプトインの仕組みは、単なる本人確認だけでなく
- 確実にメールが届いた
- 開封された
- メルマガ購読への明確な同意があった
という複数のシグナルを兼ねていました。
EVPでこのステップをスキップできるようになる分、事業者は登録後のオンボーディング体験や、初期のメールコミュニケーションの設計に、これまで以上に工夫が必要です。
最後に
EVP(メール確認プロトコル)は、ユーザーには「何もせずに便利になる」恩恵を、事業者には「手軽な実装でコンバージョン改善」というメリットをもたらす、双方にとって前向きな技術です。
「メールアドレスの所有確認」は効率化してくれますが、お客さまとのエンゲージメント構築まで肩代わりしてくれるわけではありません。
それでも、Web上のあらゆる登録フォームに関わる話だけに、この「次世代の当たり前」になり得る仕組みを今のうちから理解しておいて損はないと思います。