もう知らないでは済まされない、ドメインウォームアップの重要性
「メールアドレスを登録したのに、認証コードが届かない」。Web出願や会員登録の現場では、このひと言がそのまま問い合わせ対応の増加や、申込みの取りこぼしにつながります。
2025年10月のNHK ONEの事例のように、新しい送信ドメインからいきなりメールを送ると、受信側に「実績のない送信者」と判断され、迷惑メールフォルダに入ってしまうことがあります。
本記事では、当社が2026年10月に実施した、公立高校入試のWeb出願システムのドメインウォームアップの実例を、実際の数字とともにご紹介します。ウォームアップの基本的な考え方と手順は、下記の記事で解説しています。
事例の概要
ご依頼いただいたのは、複数の県の高校入試Web出願システムを開発・運用している事業者さまです。今回はそのうちの1つケース(以下、A県)の結果をご紹介します。
- 対象のシステム
- A県の公立高校入試Web出願システム
- 対象のメール
- メールアドレス登録時の「認証コードのご案内」
- 送信ドメイン
- 出願システム専用に用意した新しいサブドメイン
- 送信経路
- 国内のメール配信サービス(SMTP)を経由して配信
- 目標
- 出願期間にメールが集中しても、迷惑メール扱いされずに届く状態をつくる
なぜウォームアップが必要だったのか
入試の出願メールは、1年のほとんどの期間はほぼ送られず、出願期間にだけ一気に通数が増えます。送信ドメインに実績がないまま本番を迎えると、受信側から「急に大量のメールを送り始めた新参者」に見えてしまいます。
しかも、届かないメールは認証コードです。届かなければ、受検生や保護者はその先の手続きに進めません。そこで、出願期間の前に1か月かけて、送信ドメインの評価を育てることにしました。
31日間の結果
下のグラフは、31日間に届いたメールが受信側のどこに入ったかの推移です。期間のボタンを押すと、その時期に何が起きていたかを確認できます。
31日間の進め方
実施にあたっては、本番と同じ認証コードメールの文面を、ウォームアップ用のテスト受信アドレス(Gmail)に毎日送信しました。送信のたびに、受信側で「迷惑メールフォルダ」「プロモーションタブ」「受信トレイ」のどこに入ったかを記録しています。
① 立ち上げ期:一般的な目安よりも少ない通数から始める
最初は、一般的な目安よりもさらに少ない通数から始め、ゆっくり増やしました。通数が少ないうちは、ほとんどのメールがタブに入りました。
ただし、この段階で「評価が上がった」と判断するのは早すぎます。通数がまだ少なく、受信側に様子を見られている段階だと考えています。
② 慣らし期:増やすペースを少し上げる
結果を見ながら、増やすペースを少し上げました。タブに入る割合は96〜100%で、迷惑メールはほぼありませんでした。
③ 加速期:迷惑メールが一気に88%へ。それでも増やし続ける
本番の通数に近づけるため、増やすペースを大きく上げました。すると、その初日に迷惑メールの割合が88.3%まで跳ね上がりました。
ここが、ウォームアップで一番判断が難しい場面です。今回は送信を止めず、毎日の結果を見ながら通数を増やし続けました。その結果、迷惑メールの割合は毎日下がり、この時期の終わりには27.1%になりました。
④ 維持期:本番のピークを想定した通数で固定する
本番のピークを想定した通数に達したところで、通数を固定しました。迷惑メールの割合は19.0%→10.3%→6.4%→4.6%と毎日下がり、最終日には届いたメールの95%以上が迷惑メール以外に入るようになりました。
一般的な手順と違った、5つのこと
当社の解説記事では、一般的なウォームアップの手順をご紹介しています。実際に31日間やってみると、教科書どおりにはいかない点もありました。
(1)一般的な目安よりも少ない通数から始めた
一般的には「1日目は10通、1週間で100通」が目安です。今回は、まったく使われていない新しいサブドメインだったため、それよりもさらに慎重に、少ない通数から始めました。
(2)開封などの反応は、テスト受信アドレスで確保した
ウォームアップでは、メールを開封してもらうなどの「反応」が欠かせません。社内や知人に送る方法もありますが、毎日数千通となると現実的ではありません。今回はウォームアップ用のテスト受信アドレスを使い、開封率は期間を通して約98%でした。
(3)通数の目安は「本番のピークに耐えられるか」で決めた
マーケティングメールでは、「月間配信数の20〜30%」がウォームアップの通数の目安です。しかし、入試のメールは出願期間に集中するため、月間の平均では考えられません。今回は、出願期間のピークに耐えられることを目標に、ピークから逆算して通数と期間を決めました。
(4)まず目指すのは「受信トレイ」ではなく「迷惑メール以外」
Gmailには、受信トレイの中に「メイン」「プロモーション」「新着」などのタブがあります。今回の結果では、メインの受信トレイに入った割合は期間を通して1〜2%で、ほとんどはタブに入りました。
タブに入ったメールも、受信トレイの中で切り替えれば確認できます。一方、迷惑メールフォルダに入ったメールは、受信者が気づかないことがほとんどです。ウォームアップの評価は、まず「迷惑メールの割合がどこまで下がったか」で見るのが現実的です。
(5)増やし方を変えた日に、評価が大きく揺れる
③の加速期のように、増やすペースを変えた日に評価が大きく揺れることがあります。また、送信ドメインのDKIMは、DNSに設定してから確認ツールで「認証済み」になるまで時間がかかることもありました。設定しただけで安心せず、毎日の結果と認証の状態を確認しながら、通数を調整することが大切です。
本番に向けて
今回のウォームアップは、HTML形式のメールで実施しました。本番の認証コードメールはテキスト形式のため、受信側の判定はさらに良くなると見込んでいます。
なお、本記事の数字はウォームアップ用のテスト受信アドレスでの結果で、実際の受信者への届き方を保証するものではありません。また、日付の区切りは集計ツールの時刻(インド標準時)によるもので、日本時間とは数時間のずれがあります。
最後に
新しい送信ドメインは、最初は受信側からまったく信頼されていません。今回の事例でも、最初の約1か月は迷惑メールに入る割合が高い状態が続き、毎日の結果を見ながら通数を調整して、ようやく迷惑メールの割合を5%以下まで下げられました。
大切なことは、
- 本番のピークから逆算して、ウォームアップの期間と通数を決めること
- 少ない通数から始めて、毎日少しずつ増やすこと
- 毎日の結果を見て、評価が揺れても慌てずに調整すること
です。認証コードやパスワード再設定など、届かなければ困るメールを新しいドメインで送り始める予定があれば、本番の1〜2か月前から準備を始めてください。
当社では、送信ドメインの評価づくりから毎日のモニタリングまで、ドメインウォームアップをまとめてお引き受けしています。お気軽にお問い合わせください。