IPウォームアップとは?SendGrid・Braze・Bird・GreenArrow・Adobeの5社を比較
新しいIPアドレスから大量のメールを送信すると、なぜメールが迷惑メールフォルダに入ったり、受信側で制限されたりするのでしょうか?
その理由の一つが、新しいIPアドレスにはまだ十分な「送信実績」がなく、Google(Gmail)、Microsoft(Outlook/Hotmail)などのメールサービスから慎重に評価されるためです。
この背景には、サイバー犯罪を行う攻撃者が新しいIPを使って使い捨てのようにIPを使うことを防ぐことがあると考えられます。
そこで重要になるのが「IPウォームアップ(IP Warm-up)」です。
IPウォームアップとは、新しいIPアドレスからのメール送信量を少量から始め、徐々に増やしながら、受信側のメールサービスに対して良好な送信実績を積み上げていく取り組みです。
IPウォームアップとは?なぜ必要なのか
新しいIPアドレスからメールを送信すると、Google、Microsoftなどのメールサービスは、そのIPアドレスからどのようなメールが、どのくらいの頻度で、どのくらいの量送られているのかを確認します。
特に新しいIPアドレスは、それまでの送信実績がありません。そのため、最初から大量のメールを送信すると、送信量を制限されたり、迷惑メールとして扱われたりする可能性があります。
Twilio SendGridも、新しい専用IPアドレスからメールを送信する場合、送信量を徐々に増加させることで、受信側のメールサービスに正当な送信者としての評価を構築する「IPウォームアップ」を推奨しています。
つまりIPウォームアップとは、単に「IPアドレスを温める」ことではありません。
新しいIPアドレスから、受信者が望んでいるメールを安定して送り、良好な送信実績を少しずつ積み上げていくプロセスと考えると分かりやすいでしょう。
日本でも比較的知られているSendGridをはじめ、各社はどう考えている?
IPウォームアップについては、メール配信サービスやマーケティングプラットフォーム各社が、それぞれ独自のガイドラインを公開しています。
日本でも比較的知られているSendGridは、メールAPIやSMTPリレーなどを提供するメール配信サービスです。特に専用IPを利用する大規模なメール配信において、IPウォームアップの仕組みを提供しています。
一方、今回比較するBrazeは、顧客エンゲージメントを支援するマーケティングプラットフォーム。
Birdはメールなどのコミュニケーション機能を提供する顧客エンゲージメントプラットフォーム。
GreenArrowは大規模なメール配信を支えるメール配信基盤・配信ソフトウェア。
AdobeはAdobe Experience Cloudの中でメール配信やデリバラビリティに関するサービス・ガイドを提供しています。
つまり、5社は同じ「メール配信」の領域に関わっていますが、対象とする企業規模やサービスの位置付けはそれぞれ異なります。
5社のIPウォームアップを比較
| サービス | 主な位置付け | ウォーミングの考え方 | 特長 |
|---|---|---|---|
| SendGrid | メール配信サービス | 少量から時間単位で段階的に増加 | 具体的な自動ウォームアップスケジュール |
| Braze | 顧客エンゲージメント・マーケティングプラットフォーム | 少量から開始し、エンゲージメントを見ながら増加 | 「誰に送るか」を重視 |
| Bird | 顧客コミュニケーションプラットフォーム | 4~8週間程度かけて段階的に増加 | 高エンゲージメントユーザーから開始 |
| GreenArrow | 大規模メール配信基盤・配信ソフトウェア | ISP・IP単位で送信量を管理 | 送信速度やIP数まで細かく管理 |
| Adobe | Adobe Experience Cloud/メール配信・デリバラビリティ | 少量から始め、4~8週間以上かけて増加 | エンゲージメントと一貫性を重視 |
この比較から分かるのは、「IPウォームアップは○日間で○通送れば完了」という共通のルールは存在しないということです。
一方で、5社には非常に共通した考え方があります。
- 最初から大量送信しない
- 少量からスタートする
- メールに反応するユーザーを優先する
- 送信量を徐々に増やす
- Google、Microsoft、Yahoo!など受信先ごとの状況を確認する
- バウンスや迷惑メール報告などを監視する
- 問題が発生したら増量を止める
SendGrid:41日間の具体的な自動IPウォームアップ
まず、日本でも比較的知名度の高いSendGridです。
SendGridでは、専用IPアドレスを追加した場合、そのIPアドレスを自動的にウォームアップする機能を提供しています。
特長として言えるのが、1日単位ではなく、1時間あたりの送信上限を設定していることです。
| ウォームアップ日 | 1時間あたりの送信上限 |
|---|---|
| 0日目 | 20通 |
| 1日目 | 28通 |
| 2日目 | 39通 |
| 3日目 | 55通 |
| 7日目 | 211通 |
| 14日目 | 2,222通 |
| 21日目 | 23,427通 |
| 28日目 | 246,953通 |
| 30日目 | 484,029通 |
| 41日目 | 19,601,056通 |
SendGridの自動ウォームアップは41日目まで続き、日数に応じて1時間あたりの上限を引き上げていきます。
SendGridは、マーケティングメールについてはIPウォームアップを推奨し、「可能な限りゆっくりウォームアップする方がよい」と説明しています。
一方、送信タイミングを自由に制御できないトランザクションメールについては、厳密なウォームアップスケジュールを重視しない考え方です。
Braze:「何通送るか」だけではなく「誰に送るか」
Brazeは、企業とお客さまとの継続的なコミュニケーションを支援する顧客エンゲージメントプラットフォームです。
Brazeが2025年に公開したIPウォームアップのガイドでは、次の4つを基本ステップとして挙げています。
- 少量のメールから始める
- 送信量を徐々に増やす
- エンゲージメントの高い購読者を対象にする
- 結果を監視して、必要に応じて調整する
具体的な例として、1日目は1IPあたり50~100通程度から開始し、その後、
「50通→100通→500通→1,000通→5,000通→10,000通…」
と段階的に増やす例を紹介しています。ただし、これは固定ルールではありません。
最終的な送信量、リストの規模、送信頻度、リストの健全性、ユーザーの反応などによって適切なウォーミング速度は変わります。
また、最初の送信対象として、直近30~90日以内に開封・クリックしたユーザーや、ダブルオプトイン済みユーザー、VIP・ロイヤルティユーザーなど、反応が期待できるユーザーを推奨しています。
Bird:4~8週間かけて、送信対象も徐々に広げる
Birdは、企業とお客さまとのコミュニケーションを支援するプラットフォームで、メールなどのメッセージング機能を提供しています。
Birdでは、IPまたはドメインのウォーミングについて、最大限の配信品質を確立するまで4~8週間かかると説明しています。
必要な期間は、最終的な送信量やユーザーのエンゲージメントによって変わります。
Birdが特長的なのは、単純に送信量を増やすだけではなく、送信対象となるユーザーの範囲も徐々に広げることです。
まずは最も反応の良いユーザーに送信し、ウォーミングが進んだ段階で、より古いセグメントを追加していきます。Birdは、古いセグメントを既存の送信量に対して15%ずつ追加する方法も推奨しています。
つまりBirdの考え方は、
「送信量をウォームアップする」だけではなく、「送信対象もウォームアップする」
というものです。
GreenArrow:大規模メール配信を想定した細かなIP管理
GreenArrowは、日本ではまだSendGridほど知られていませんが、大量のメール配信を行う企業向けのメール配信基盤・配信ソフトウェアを提供しています。
GreenArrowのIPウォームアップガイドは、特に大規模メール配信を行う企業にとって参考になる内容です。
GreenArrowでは、1つのIPアドレスから1つの受信側サービスに対して、最初は1日約5,000通を送ることを推奨しています。
一般的に最大の受信側サービスがメーリングリストの約25%を占めると仮定すると、全体では1IPあたり約20,000通/日が一つの目安になります。
問題がなければ、送信量を毎週50%ずつ増加させます。
| 週 | 1IPあたりの1日送信量 |
|---|---|
| 1週目 | 20,000通 |
| 2週目 | 30,000通 |
| 3週目 | 45,000通 |
| 4週目 | 67,500通 |
| 5週目 | 101,250通 |
ただし、受信側から送信量を制限されたり、送信失敗率が高くなったりした場合は、機械的に増量してはいけません。
さらにGreenArrowでは、1日の送信量だけではなく送信速度も管理します。
ウォーミング中は、その日のメールを少なくとも4時間、できれば8時間程度かけて送信することを推奨しています。
Adobe:少量から始め、8週間以上かけて信頼を築く
Adobeは、Adobe Experience Cloudの中でメール配信やデリバラビリティに関するサービスを提供しており、メール配信に関する詳細なベストプラクティスも公開しています。
AdobeのIPウォームアップに関する資料は、2026年4月8日に更新されています。
Adobeは、新しいIPアドレスからいきなり大量のメールを送信するのではなく、最初は少量のメールをエンゲージメントの高いユーザーに送り、徐々に送信量を増やすことを推奨しています。
また、IPウォームアップには通常少なくとも8週間かかるプロセスを想定しています。
Adobeが評価対象として挙げているのは、送信量だけではありません。
- 送信量
- 送信頻度
- 迷惑メール報告
- バウンス
- スパムトラップ
- ブロックリスト
- 購読者のエンゲージメント
など、複数のシグナルを総合的に見ています。
また、Google、Microsoftなど、受信側のサービスによって対応が異なるため、状況に応じた調整も必要になります。
Adobeの別の移行ガイドでは、これらを主要な受信先として挙げ、IPとドメインのウォーミングについて最大8週間を一つのベンチマークとしています。
5社を比較すると見えてくる「IPウォームアップの共通点」
| 項目 | SendGrid | Braze | Bird | GreenArrow | Adobe |
|---|---|---|---|---|---|
| 少量から開始 | ○ | ◎ | ◎ | ○ | ◎ |
| 段階的に増量 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
| 高エンゲージメントユーザーを優先 | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
| 送信結果を見て調整 | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
| 送信速度を管理 | ◎ | ○ | ○ | ◎ | ○ |
| Google・Microsoftなど受信先別に考える | ○ | ○ | ○ | ◎ | ◎ |
「何通から始めればいい?」に正解はあるのか
ここまで読むと、疑問に思うかもしれません。
「結局、IPウォームアップは何通から始めればいいの?」
SendGridでは1時間20通から始まる一方、Brazeでは1IPあたり50~100通程度から開始する例があり、GreenArrowでは1IPあたり約20,000通/日という大規模送信向けの例が示されています。
この違いは、どれかが間違っているということではありません。
対象としている
- 企業の規模
- 通常の送信量
- IP数
- 送信先の構成
- ユーザーのエンゲージメント
などが違うからです。
したがって、重要なのは「○通から始める」という固定値ではなく、そのIPに対して安全な送信量を設定し、結果を確認しながら段階的に増やすことです。
IPウォームアップで重要なのは「通数」だけではない
5社の資料を比較すると、IPウォームアップで見るべき指標が明確になります。
1.送信量
一気に増やさず、徐々に増やします。
2.送信頻度
毎日10,000通、翌日は0通、その翌日に100,000通というような不規則な送信は避け、安定した送信パターンを作ります。
3.エンゲージメント
最初はメールを開封・クリックする可能性が高いユーザーを優先します。
4.バウンス
存在しないメールアドレスなどへの送信が多いと、送信者としての評価に悪影響を与える可能性があります。
5.迷惑メール報告
受信者が「迷惑メール」として報告する割合が高い場合、送信量を増やすべきではありません。
6.受信先ごとの状況
Googleでは問題ないのに、Microsoftでは送信が制限される、といったケースも考えられます。
そのため、全体の数字だけではなく、Google、Microsoftなど受信先ごとの状況を見ることが重要です。
IPウォームアップとドメインウォーミングは別物
ここで注意したいのが、IPウォームアップとドメインウォーミングは同じではないということです。
IPウォームアップは、新しいIPアドレスからの送信実績を段階的に構築する取り組みです。
一方、ドメインウォーミングでは、送信ドメインのレピュテーションを段階的に構築していきます。
現在のメール配信では、IPアドレスだけでなく、送信ドメインについてもGoogle、Microsoftなどの受信側サービスから評価されます。
そのため、新しいIPと新しいドメインを同時に使い始める場合は、IPとドメインの両方を慎重に立ち上げることが重要です。
プリモポストのドメインウォームアップ
プリモポストでも、メール配信におけるウォームアップを
- IP
- ドメイン
両面でご支援しております。
その考え方は、今回紹介したAdobeに近く、最初から大量のメールを送るのではなく、少量からスタートして徐々に送信量を増やしていくというものです。
ウォーミングでは、単純にメールを大量に送ればよいわけではありません。
Google、Microsoftなどの受信側サービスに対して、安定した送信実績を積み重ねていくことが重要です。
IPウォームアップに必要なSeedメールアドレスをご提供しています
IPウォームアップを実施する際には、ウォーミング用のSeed(シード)メールアドレスが必要になる場合があります。
プリモポストでは、IPウォームアップに活用できるSeedメールアドレスをご用意しています。
「新しいIPアドレスをウォームアップしたいが、どのようなメールアドレスを使えばよいのか分からない」
「IPウォームアップに必要なSeedを用意したい」
といった場合は、ぜひプリモポストまでお問い合わせください。
IPウォームアップやドメインウォーミングについても、現在のメール配信環境を確認したうえでご相談いただけます。
最後に
今回、SendGrid、Braze、Bird、GreenArrow、Adobeの5社を比較しましたが、開始する通数や推奨期間は各社のターゲットによって様々です。しかし、**すべてのサービスに共通する本質**は一つしかありません。
【5社に共通する運用原則】
- 「少量」かつ「高エンゲージメントなユーザー」からスタートする
- 不規則な送信を避け、送信量を「段階的」に増やしていく
- バウンス率・迷惑メール報告・受信先(Google/Microsoft等)別の挙動を常時監視する
IPウォームアップとは、単に「規定の通数をこなす作業」ではありません。
受信側のメールサービスに対して「このIPは安全で、ユーザーに望まれているメールを送っている」という良好な送信実績(レピュテーション)を積み重ねるプロセスです。
特に新しいIPやドメインから配信を始める際は、目前のスピードにとらわれず、時間をかけて安全に実績を築くことこそが、長期的なメール到達率を最大化させる唯一の近道となります。
新しいIP・ドメインで安定したメール配信を始めるなら
プリモポストでは、ドメインウォームアップのご支援に加え、IPウォームアップを安全かつスムーズに進めるための「Seedメールアドレス」をご用意しています。
「新規IP・ドメインからの配信を控え、失敗したくない」
「専用IPへの移行に伴い、適切なウォームアップ計画を立てたい」
このような課題をお持ちの事業者さまは、ぜひお気軽にご相談ください。