【2025年6月!スパムハウス警鐘】あなたのBtoB新規開拓メール、もしかして「迷惑メール」扱い?
スパムハウスという名前を聞いて、思わず顔をしかめる方は、きっとメールマーケティングに長年携わり、一度は苦い経験をしたことがあるのではないでしょうか。
そのスパムハウスが、2025年6月19日に「コールドメール(新規開拓メール)」を「迷惑メール(スパム)」として扱うと強く警鐘を鳴らしました。
https://www.spamhaus.org/resource-hub/spam/spamhaus-take-on-cold-emailing-aka-spam/ ※”AKA”は”also known as”の略
LinkedInやウェブスクレイピングなどで取得したコールドメールのリストを活用する行為は、一見活況を呈しているように見えても、メール業界全体、そしてインターネットの健全性にとって「深刻な懸念材料」であると彼らは主張しています。
今回の記事では、スパムハウスが独自の視点から見た「コールドメール」の定義、そして私たちが認識しているコールドメールが彼らの基準ではどのように分類されるのかを具体的に示しています。
また、特にBtoBコミュニケーションにおけるコールドメールの悪用とその懸念についても深く掘り下げ、企業間のやり取りで使われるコールドメールがなぜ問題視され、どのような悪影響を及ぼしているのか、その実態が解説されています。
さらに、この問題を引き起こしている組織についても具体的な言及があり、コールドメールの悪用を助長している企業やプラットフォームに対して、スパムハウスがどのような見解を持っているのかも明らかにされています。
スパムハウスは、コールドメールが単なる営業手法ではなく「インターネットの健全性を脅かす迷惑メール」として分類する、という厳しい現実を私たちに突きつけているのです。
受信ボックスにあふれるBtoBプロモーションメールの送信者へ、スパムハウスからの重要なメッセージをお届けします。
そもそもスパムハウスは何者?あなたのメールが届かない、その裏側にある”世界の門番”
普段何気なく使っているAppleのメール(iCloudメールなど)やYahoo! JAPANのフリーメール。ある日、大切な相手にメールが届かなくなったり、逆に自分のメールボックスが迷惑メールで溢れかえったりした経験はありませんか?
その背景には、「スパムハウス(The Spamhaus Project)」という、インターネットのメール環境に絶大な影響力を持つ”世界の門番”のような組織の存在が深く関わっています。
スパムハウスとは、ロンドンとジュネーブに拠点を置く国際的な非営利組織です。彼らの使命はただ一つ、「インターネット上から迷惑メールを撲滅すること」。
そのために、世界中に「スパムトラップ(ハニーポット)」と呼ばれるおとりのメールアドレスを無数に仕掛け、そこに送られてくるメールを分析しています。中には、日本の携帯キャリアのメールアドレスが使われていることもあります。
また、世界中のネットワークを監視し、迷惑メールの送信元となっているサーバーや、フィッシング詐欺などの悪意ある活動に関わるドメインを特定し続けています。
そして、特定したこれらの悪質な送信元情報をリスト化した「ブロックリスト(DNSBL – DNS-based Blackhole List)」を作成し、世界中に提供しているんです。
日本で「メールが届かない」原因の多くは、送信元のドメインやIPアドレスがこのリストに掲載され、受信ボックスで完全にブロックされるか、迷惑メールフォルダに振り分けられるようになっているからです。
スパムハウスが定義する「コールドメール」とは何か?
「コールドメール」という言葉は、かつての電話帳を使ってひたすら電話をかけていた時代の「コールドコール(飛び込み営業電話)」に由来します。いずれのケースでも、「コールド(冷たい)」という言葉が示すのは、連絡する相手との間に事前の関係性が一切ないことです。
これは、すでに何らかの関心がある「ウォームリード」や「ホットリード」とは根本的に異なります。
スパムハウスはコールドメールを、「事前の関係性がない個人や企業に対し、主にビジネス目的で一方的に送られるメール」と定義しています。
メールが一方的に送られてきたとしても、それだけで自動的に迷惑メール扱いになるわけではありません。何のつながりもない2者間で正当な「一対一のメッセージ」が交わされることはもちろんあり得ます。
しかし、問題はコールドメールの配信が、システムによって自動化され、配信規模が拡大し、大量に送られるようになった時に始まります。この瞬間、個人的なメッセージという判断の枠を超え、迷惑メールへと変貌してしまうのです。
これらのコールドメールは、事前の取引に基づく関係性があるわけではなく、また受信者からの「確認済みオプトイン(明確な受信許可)」も得ていません。スパムハウスから見れば、このようなコールドメールは迷惑メールそのものなのです。
彼らのFAQで定義されている迷惑メールは、「一方的に大量に送られるすべてのメール」を指します。スパムハウスは業界標準の定義である「Unsolicited Bulk Email(一方的な大量メール)」を用いています。
ここで理解すべき点は、「コンテンツの内容ではなく、事前の検証可能な同意があるかどうかが重要である」という点。さらに、「Bulk(大量)」は「不特定多数に向けて、まとめてドーン!と送っている」状態を意味します。
つまり、スパムハウスは、突き詰めると「コールドメール」と「迷惑メール(スパム)」の間に本質的な違いはないと断言しています。なぜなら、両者には共通して次の3つの特徴があるからです。
- 相手の「同意」がない:メール受信者が、「送ってください」と明確に許可したわけではありません。
- “商業的な関係”がない:すでに取引があったり、顧客になっていたりするわけではありません。
- “大量(自動化された)配信”が行われている:一人ひとりに手書きで送るのではなく、多くの人にまとめて、またはシステムを使って自動で送っています。
これらの特徴が当てはまるメールは、どんなに「営業」や「新規開拓」だと送信者が思っていても、スパムハウスから見れば、迷惑メールと同じだと見なされる、ということなのです。
なぜ「B2Bのコールドメール」は増え続けているのか?その裏にある「助長者たち」の存在
「また、この会社から見覚えのないコールドメールが来た…」「なぜこんなにも、自分とは関係ないメールが届くのだろう?」こんな風に思ったことはありませんか?
実は、このようなコールドメールが爆発的に増えている背景には、その配信を「手助けしている事業者(助長者)」とスパムハウスが呼ぶ存在があるのです。英語では「Enablers(イネーブラー)」とも呼ばれます。
ここ10年で、コールドメールを送るためのサービスが次々と現れ、残念ながらその多くが迷惑メールの拡散を助長しています。
「迷惑メール」を加速させる”助長者たち”の巧妙な手口
こうした迷惑メールを助長する世界の事業者は、実に様々な手法を駆使しています。彼らの典型的なやり方を見ていきましょう。
迷惑メールを送信するリストを作る
ターゲットとなる企業のメールアドレスを大量に購入したり、LinkedInなどのソーシャルメディアや企業サイトから情報を抜き取ったり(スクレイピング)、さらには不足している情報を補完して、迷惑メールを送るためのリストを大量に作成しています。
ドメインのウォームアップツールを使う
送信するメールの量が多すぎるとすぐに迷惑メールと判断されるため、「ドメインのウォームアップツール」を使って、まるでごく普通のメールを送っているかのように見せかけ、受信ボックスを欺いています。
AIやLLMを使う
最近ではAI(人工知能)やLLM(大規模言語モデル)が活用されています。これらを使い、あたかも一人ひとりに合わせて書かれたかのように見せかけたメールを、驚くほどの速さと量で自動的に作り出しています。
送ったメールがきちんと届き、開封やクリックされたように見せかけるため、「エンゲージメントの不正操作」まで行われることもあります。
使い捨てドメインと無料サービスの悪用
迷惑メールフィルターをすり抜けるために、会社のコーポレートサイトやサービスサイトで使うものとそっくりな「使い捨てドメイン」を大量に作り出せるプラットフォームを悪用しています。
そして、Microsoft OutlookやGoogle Workspaceのような正規のメールサービスやクラウドプロバイダーの無料プランを悪用し、大量の迷惑メールを送りつけている実態もあります。
「正規の新規開拓」という名目のもと、多くの企業がメールスクレイパー、ウォームアップツール、偽のエンゲージメントサービス、そして類似ドメインといったツールを使いこなしているのです。
これらのメールは、送る側が本当に相手に伝えたいビジネス上の関心があるわけではなく、ほとんどが同じテンプレートを使い回して大量に送りつけられています。
特に、LinkedInなどのビジネス向けSNSから意思決定者の情報を抜き出したり、個人情報を元にメールアドレスを自動で完成させたりするスクレイピングツールが悪用されています。
スパムハウスは、AIやLLMの利用が今後さらに増えることで、このような形式の迷惑メールが、より狙いを定めて、さらに大量に送られるケースが増加していくだろうと予測しています。
法律はOKでも「迷惑」? BtoB新規開拓メールの意外な落とし穴と日本の”グレーゾーン”
「うちの会社が送っているメール、法律には違反してないから大丈夫なはず!コンプライアンスはとても大切です!」
そう思っている方もいるかもしれません。しかし、スパムハウスは今回の記事の中でも「法律で許されていても、それが必ずしも『正しいやり方(倫理的)』とは限らない!」と強く警告しています。
コールドメールの”本来の姿”と”守るべきマナー”
スパムハウスによると、本来のコールドメールは、真にビジネス上の関心がある相手を選び抜き、意図を正直に伝えた上で、個人的な内容に調整して送るメールでした。彼らも、きちんとビジネス上の理由があれば、見込み客にアプローチすることは許されると認めています。
ただし、その場合でも、メールを送るときの「良いマナー(メールベストプラクティス)」は必ず守るべきだと強く言っているのです。
コンプライアンスは「大丈夫」でも、世界と日本は違う?
アメリカの「CAN-SPAM法」やEUの「GDPR」といった海外の法律は、BtoBのメールコミュニケーションについては、まだはっきりとしたルールが完全に決まっていない部分があります。スパムハウスは、この「ハッキリしない部分(グレーゾーン)」が悪質な迷惑メールを送る人たちに利用されていると指摘しています。
これを日本の状況に当てはめてみましょう。
日本の「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」(通称:特定電子メール法)は、迷惑メール対策を目的とした法律です。この法律は、原則として「同意のない広告・宣伝メールの送信」を禁じています。
しかし、BtoB(法人向け)のメールに関しては、この「同意」の解釈に、一部「明確な線引きがない」、あるいは「実務的に同意が不要とされるケースがある」というグレーゾーンが存在します。
具体的には次のようなケースがその典型例と考えられます。
名刺交換した相手に送る営業メール
名刺交換はあくまで連絡先の交換であり、必ずしも「営業メールの受信を明確に同意した」と見なされるわけではありません。しかし、相手が法人である場合、一般的なビジネス慣習として最初の挨拶や情報提供であれば、直ちに違法とは判断されにくい傾向があります。
会社のホームページに載っているメールアドレスへの営業メール
ウェブサイトに公開されているメールアドレスは、その企業への問い合わせ窓口として設置されていることが多いため、そこに送られる営業メールが、一律に「同意のない広告メール」として違法になるとは明記されていません。
つまり、日本の特定電子メール法が想定している「迷惑メール」は主に消費者向けの大量無差別送信であり、BtoBの文脈で「ビジネス上の合理的な範囲」と解釈されるメールについては、すべてを違法とする明確な規定がない、というのが現在の実務的な理解です。
法令遵守でもスパムハウスの判断は異なる
だからこそ、スパムハウスが指摘する「合法性」と「倫理性」の隔たりが、日本においても問題となるのです。
たとえ、あなたが送るBtoB新規開拓メールが、日本の法律に直接違反していなかったとしても、
- 大量に送るためのツールを使いまくっている
- 相手を欺く目的で、会社名に似た偽のドメインをたくさん作って使っている
- 送ったメールが読まれたり、クリックされたりしたように見せかけるズルをしている
といった行為を含んでいる場合、スパムハウスはこれらの行為を行う送信者のドメインやIPアドレスを「極めて非倫理的(ものすごく間違ったやり方)」として、迷惑メールだと判断します。
その結果、あなたのメールはGmailやApple Mail、Yahoo! JAPANといった主要なメールサービスの迷惑メールフィルターにブロックされたり、迷惑メールフォルダに直行したりする可能性が飛躍的に高まります。
法律に触れていないからといって安心するのではなく、「相手に本当に受け取ってもらえるか」「迷惑に思われないか」という視点を持つことが、BtoBの新規開拓メールを成功させるカギになります。
これが、「法律はOKでも、世界的には迷惑」という、見過ごせないリスクなのです。
スパムハウスが求める「健全なメール」の未来と私たちへの提言
スパムハウスは、これまで解説してきたようなコールドメールの手法を使っている事業者だけでなく、それを可能にしているプラットフォーム(メール配信サービスなど)も、「迷惑メール行為に加担している」と考えています。
彼らは、見込み客を増やしたいという意図があったとしても、これらの行為は許されないと非常に厳しい姿勢を示しているんです。では、スパムハウスは具体的に何を求めているのでしょうか?
プラットフォームへの厳格な要求
スパムハウスは、大量のメール送信を可能にしているメール配信プラットフォーム事業者(例えば、メール配信サービスやマーケティングオートメーションツール)に対し、次のことを強く求めています。
- 利用規約での明確な禁止: コールドメールのような迷惑行為を、サービスの利用規約ではっきりと禁止すること。
- 厳格な運用と取り締まり: 規約に違反したユーザーに対して、厳しく対処する仕組みを作り、きちんと実行すること。
送信者に求める「同意」の証明:「勝手に使い回さないで!」という要求
また、スパムハウスは「一度許可されたからといって、その許可が他の人やサービスに勝手に引き継がれるわけではない」と強調しています。
メールを送るためのサービス(配信プラットフォームなど)に対して、「サービスを使う企業(メール送信者)が、メールを送る相手から『このメールを送っていいですよ』というはっきりした同意を得ていることを、きちんと証明できるようにしなさい!」と求めているのです。
つまり、適当な方法で集めたメールアドレスに送るのではなく、「私たちはこのメールアドレスに、この内容のメールを送ることを、この人が明確に許可してくれました」という証拠を、いつでも示せるようにしておくべきだ、ということ。
これは、「メールの受信は、受け取る側の意思が最優先されるべきだ」というスパムハウスの強い考えが反映されている部分なのです。
「迷惑メールリスト」入りへの警告
そして、これまでと同様に、スパムハウスは「大量に送られ、スパムトラップ(おとりのメールアドレス)に引っかかったコールドメールは、私たちの迷惑メールリストに載せる候補とする」と明言しています。
一度リストに載ってしまうと、あなたのメールはYahoo!やAppleメールなどの主要なサービスに届かなくなってしまいます。
未来に向けた取り組み:業界標準の策定へ
さらにスパムハウスは、現在進行形で「M3AAWG Position on Cold Email」という取り組みに積極的に貢献していると発表しています。
これは、「コールドメールの最善の慣行を定義し、一方的なアプローチに伴うリスクに対処するための協力的な努力」です。つまり、業界全体で、コールドメールに関する新しいルールやガイドラインを作ろうと動いているわけです。
スパムハウスは、この新しいガイドラインの発表を「楽しみに待っていてほしい」と伝えています。これは、今後BtoBの新規開拓メールを取り巻く環境が、大きく変化する可能性があることを示唆しています。
彼らの目的は一貫しています。それは、迷惑メールを減らし、インターネット上の健全なメールコミュニケーションを守ること。そのために、プラットフォームと送信者の両方に、より高い倫理観と責任を求めているのです。
あなたのBtoB新規開拓メールが、本当に届けたい相手に確実に届き、ビジネスの成果につながるよう、スパムハウスが示す真実と提言をぜひ活用してください。