Microsoftの商品のメール到達率。実はOffice365とOutlookは違うロジックが使われている!?
2025年現在、メールマーケティングにおいて最も重要な課題の一つは「Microsoft系メールへの到達率の安定化」です。Microsoftが2025年5月5日から施行する新方針でメールの到達はますます困難になってきます。
OutlookおよびMicrosoft 365ユーザに、24時間で5,000通以上配信する大量メール送信者は、なりすまし対策であるSPF・DKIM・DMARCの正確な設定に加え、ARC(Authenticated Received Chain)やList-Unsubscribeヘッダーの実装が義務づけられます。
来月からMicrosoftユーザに対するメールの到達率が注目されるなか、メール配信のエキスパートであるサラ・パパドプロー氏が
「Microsoftは「Outlook.com(個人向け)」と「Office 365(法人向け)」でまったく異なる迷惑メールフィルターを使っているとかどうか!?
という非常に興味深い検証を行い、記事を公開いたしました。今回は、サラ・パパドプロー(Sarah Papadopoulou)氏がが実際に行ったテスト結果を紹介しながら、今現在のMicrosoftのメール到達性の“正体”に迫りたいと思います。
サラ・パパドプロー氏のプロフィール
サラ・パパドプロー氏は、Moosend(Sitecoreグループ)にてシニア・デリバラビリティ・マネージャーとして活躍する、ヨーロッパを代表するメール配信の専門家です。
彼女は「Inbox Expert(受信箱の達人)」の異名を持ち、迷惑メールの回避・バウンス率低減のエキスパートとして、多くの企業のメールマーケティング成功を支援してきました。
また、自身が立ち上げた配信検証サービス「checkmylink.gr」などを通じて、送信ドメインやリンクの健全性チェックを広く提供し、送信者の信頼性向上をサポートしています。
https://www.linkedin.com/in/sarah-papadopoulou-0525ba55/
サラ氏がOutlook.comとOffice 365に対して行った8つのテストケースと結果
サラ氏が実際に行った、Microsoftが提供する2つのメールプラットフォーム(Outlook.comとOffice 365)におけるフィルタリング動作の違いを検証した8つのシナリオです。
彼女の実験は、SPF・DKIM・DMARCといった技術的要素に加えて、
- IP評価
- コンテンツの質
- 迷惑メール率
- 送信頻度
といった複数の要素が配信結果にどのように影響するかを体系的に分析したものです。
シナリオ | 仮説 | Outlook.comの結果 | Office 365の結果 | コメント・示唆 |
---|---|---|---|---|
① SPF・DKIMなし | なりすまし対策なしは届かない | Othersのタブに届く | IP評価が良好でも、SPF・DKIMなしはNG | |
② 新規IPで送信 | 新規IPからの実績がないと不利 | 正常に届く | 初期はOKも、長期的にはウォームアップが必須 | |
③ 迷惑メールっぽい内容 | 文面が悪いと弾かれる | 警告付き受信 | リンク・本文の表現にも注意が必要 | |
④ SNDSで赤判定の送信IP | 悪評の送信IPは届かない |
エラー(バウンス) |
Outlook.comはSNDSの判定を重視 | |
⑤ 共有IP内で迷惑行為あり | 他の送信者の影響を受ける | 配信率低下 | 共有IPでは同居人の品質も大切 | |
⑥ 非アクティブ送信元 | 送信頻度が低いと疑われる | やや遅延 | 定期的な送信が信頼構築に繋がる | |
⑦ 同一メールでも結果が異なる | フィルターの仕組みが異なる | 内容やIP次第で受信 or 迷惑メール | Outlook.comとOffice365は別々にテストが必要 | |
⑧ SNDSで緑判定も苦情が多数 | 緑表示でも安心できない | 見た目OKでも影響あり | SNDSの評価より実際はユーザー行動が重要 |
Return-Pathを含めた整合性(アライメント)が大切
まずは、SPF、DKIM、DMARCの3つのなりすまし対策は、単に設定するだけでは不十分で、それぞれのレコードに含まれるドメインが互いに符合していること、いわゆる”整合性(アライメント)”があるかどうかが重要です。
例えば、FromヘッダーとReturn-Pathドメインの互換性は、Office 365のような企業向けプラットフォームでは特に重要視され、これが満たされていない場合は、DMARCの判定が”pass”であったとしても、強制的に迷惑メールと評価されることがあります。
また、Microsoftが提供するSmart Network Data Service(以下、SNDS)という監視ツールを活用することで、送信IP単位における現状の評価を把握できます。
SNDSは、GoogleのPostmaster Toolsのドメイン単位の管理と異なり、IP単位での迷惑メール率や若干のメッセージボリューム、そして若干の被評価レベルが見えますが、あくまで指標であって絶対ではありません。
専用IPを使っている方向けのサービスとご理解ください。
Outlook.comとOffice 365はまったく異なるフィルター
「Microsoftには届いていますよー!」と一言で済まされがちですが、サラ氏は「Outlook.comとOffice 365はまったく異なるフィルターを使っている」とおっしゃいます。
この違いは実際の配信結果として明らかに現れており、同じメールを両環境に送信した場合、Outlook.comでは受信トレイに届くのに対し、Office 365では隔離ボックスに振り分けられるといった違いが生じることがあります。
つまり、「同じMicrosoft」という枠組みのサービスでありながらも、「二つの別個のサービス」であることを前提に対応を分けて考える必要があるのです。
IPとドメインのウォームアップを忘れずに
そして、新規IP・ドメインを使う場合は必ず「ウォームアップ」を行うべきです。これは、送信IPとドメインに配信実積を作っていくものです。Microsoftに安心を伝えるための不可欠な手順です。初日は500通程度から始め、数日ごとに倍増で送信量を増やしていくのがコンセンサスです。
なお、ドメインウォームアップサービスを提供している当社は初日は2通からウォームアップを開始しております。
また、共有IPを利用する場合は、その同居人が何をするかわからないリスクを少なくとも認識しておく必要があります。ご自身がどれだけ正しい行いをしても、同居人のかたがやんちゃ坊主の場合、メールが届かなくなる可能性があります。
最後に
サラ氏の実証により明らかになったのは、現時点においては、Microsoftメール環境におけるフィルタリングが異なること。また、配信改善には技術・戦略・モニタリングの三位一体の取り組みが必要ということです。
Googleとは違ったフィルタロジックを持つMicrosoftメール環境に対応するには、単なる認証設定だけでは不十分で、プラットフォームごとに綿密なテストと改善を積み重ねることが必要となります。